今日は暦の上では“雨水”という日だそうで、
これまでは雪が降ってたものが雨になるよと
気温が上がってそういう頃合いになって来たよということらしいのだが、
「今日は暖かいらしいが。」
東京では一昨日からこっち ずっと小雪が舞っており、
昨日の朝なぞ、
都内の平野部でもうっすら積もるほどの寒さだった。
「その前は暖かだったのにねぇvv」
昨日はお母様から着せられたらしい極寒仕様のダウンのせいで、
雪だるまみたいに もこもこな恰好だった瀬那くんも、
今日は玉子色のフリースパーカーに
白いセーターと浅い青のオーバーオールという、
間近くなった春を先取りしているような軽やかないでたち。
お眸々の大きな稚いお顔を 甘い笑顔で満たして
ひょこひょこと跳びはねるように歩くのがまた、
暖かいのが嬉しい嬉しいと
小さな柴犬ちゃんがはしゃいでいるようにも見えてか、
「わvv」
「うんうん、可愛いよねぇvv」
通りすがりの女子高生のおねいさんたちから、
お互いをつつき合うよにしての囁きつきで注目を集めていたし、
「隣の子も可愛いよねぇ。」
「モデルさんかなぁvv」
けぶるようなくせっ毛の金髪に、
そちらさんも愛らしくも整った色白なお顔は、
やや力みの強い金茶の双眸のせいでか
まだまだ幼いというに どこか“クールビューティ”な印象。
スカジャンの下にアーガイル柄のセーターとシャツを重ね、
キャラメル色のコーデュロイのズボンがなかなかお洒落。
そちらもお友達と同じく小柄で、どうやら小学生らしく、
自分たちへと向けられた視線に気がつくと、
そそくさをそっぽを向くかと思いきや、
にこぉっ、と
やや鋭角的な目許を細め、
それはまろやかに微笑ってから。
傍らのお友達の腕をちょいちょいと引き、
それは軽快な駆け足でたったかとその場を後にしたものだから、
「…かぁわいいvv」
「ホントvv」
相変わらず、女性相手には“技あり”なことをする
おさすがな子悪魔さんでございます。
◇◇◇
小学校はまだまだ三学期の真っ只中だが、
高校生や大学生はといえば、
受験との兼ね合いもあってだろう、
既に二月からほとんど授業がない身だったりもし。
「いいよなぁ、休みが多くてよ。」
セナくんと途中で別れてから、
もはや慣れたもので いつものバスに乗って賊大のグラウンドへ向かった、
小さな鬼軍曹さんこと妖一くんであり。
「今更 何を言ってやがるかな。」
グラウンドの一角に据えられたベンチに腰掛け、
もう始まっていたトレーニングのタイムテーブルや
今月の予定や何やを綴じたファイルを眺めていた、
黒髪恐持ての主将さんが、
小さいけれど優秀なブレインさんの、
だがだが いかにも子供っぽいお言いようへ
ちょいと眉を持ち上げると怪訝そうに訊き返す。
くどいようだが、こちらの坊や、
その見かけだけならば、
罪のない女子高生のおねいさんがたをたぶらかすほど
純真無垢で愛らしい、
天使のような美貌の持ち主なのだけど、
「だってよ、
基礎として勉強しとくことは たんとあるとか、
子供のうちの方が吸収しやすいからだとかって
御託は判っけど。
そういうのを積み上げた身だとかいう
高校生とか大学生とかにしても、
世間やその筋が思うほど、
特化したことに励んでもないじゃねぇかよ。」
高校時代にやったはずの数学Aとか初歩の英会話とか
一回生の必須教科にあるなんて、
しかもそれで赤点取ってるなんて笑わせるよななんて。
一部の当該関係者に耳が痛いことを言う彼は、
まだやっとこ10歳の身でありながら、
ちょっとした工学大生レベルの知識をもち、
英会話も多少なら 実用の利くそれをこなせる恐ろしさなのであり。
「…まあ、
そういう難しいことが言えるよな小学生は
高校生扱いしてもいいかも知れんが。」
おいおいおい、葉柱さんたら。(苦笑)
グラウンドコートを羽織った雄々しい肩を
相変わらず口の減らない奴だよなぁとの感慨から
ひょいとすくめかかったお兄さん。
そんな彼へと延ばされた小さな手のひらがあり、
「ん。」
やるという意味なのだろう、
軽く上下させるいかにも子供らしい態度と共に
どうぞと供されたのは、
ころころと小さくてつやつやの、
小粒のチョコレートが幾粒か。
おうと会釈をし、
受け取ったそのままポイと口へほうり込めば、
思った通り、
ピーナツをコーティングしたチョコボールで、
「素人が作ったにしちゃあ結構いい出来だろう。」
自分も同じのをカリコリと口にしつつ、
にひゃっと微笑って見せる妖一くん。
ということは、
“おやまあ、相変わらず器用だねぇvv”
これって坊やが作ったの?と、
ついさっき、先に ひと掴みいただいてたメグさんなぞは
素直にそうと感心していたけれど。
「………。」
不意に表情が固まり、
ただでさえ男臭いのが怖いほどとなった誰か様。
いやいや結構な出来栄えだし、
ましてや毒なんて入ってないだろうし…なんて、
そちらも振る舞われたのだろ、
周囲の皆様が先んじて案じたくらいの 暗転ぶりだったものの、
「…安心しなよ、
これは セナちびが進にって作ったのの試作品だから。」
はい?
「手伝ったっつうか、
まずはって俺が作ってみてから、
こうやってこうしてってのを手ほどきしたんだ。」
それでこれが たんとあるんだという坊やからの説明がまた、
微妙に“何で?”と感じるような言い回しに聞こえた周囲で。
“いやいや その前に、
俺がそんなややこしいもん食わせると思うのかと
間髪入れずに怒り出さなかったのが凄い。”
こらこら誰ですか、これは。
どんだけ坊やのことに精通してますか、皆さんたら(こらこら)
……と、
場外含めて微妙にハラハラしていた
そんな皆様へは聞こえないよう、
めずらしくも気を遣ったものか、
それとも当人が照れ臭かったからなのか、
「俺が俺用に作ったのは、
ココア味のパウンドケーキだけだから。」
同じベンチに腰掛けたまま、そそそっと身を寄せ、
それでも少し高さに差のあった相手へ こそっと囁いたのがそんな一言。
すると、
「………そか。」
その途端、何かの化学反応を見るかのように、
そりゃあ するすると。
肩から力が抜けるわ、表情から険しさが失せるわ、
肢体から強ばりが解けるわと、
傍目からも判りやすいまでの勢いで、
理解と納得をしたらしいのが伺えた主将様だったのが何ともはや。
「???」
どういうこったと首を傾げてしまっているのは、
まだまだ彼らの機微をそこまで把握は出来てない顔触れであり。
「〜〜〜vv」
たまさか間近にいたメグさんがそうなってしまったように、
もしかしたらば銀さんやツンさん辺りだったなら
やはりやはり吹き出しそうになったかも。
“そっかぁ。
ルイがもらったバレンタインデーのチョコは
ケーキだったらしいから…。”
それじゃあないのの試作品を
“手製だ”なんて言って持っていた妖一くんだったのを 誰にやったんだ、こんな手の込んだの…と、
微妙にカチンと来たらしく。
“そこまで洞察しろってのは、
さすがにウチのメンツじゃあ無理ってもんだって。”
つか、ルイ本人もバレバレな反応したこと、
まるきり気づいてもないようだと。
そんな野暮天なところへと、
これは坊や本人がくすぐったそうに微笑っておいでで。
“小学生相手に そこまで本気怒りすんなよな。/////////”
バカじゃね?と思いつつ、
ああでも 妙ににやけてしまって
言い返せないのが口惜しいなあという状況らしき子悪魔さん。
せめてそんな顔なのをばれないよう、
背中を向けたまんまとなってるところが まあ可愛いと、
メグさんからますますと微笑まれているのは、
どうか ここだけのお話に してあげてくださいませね?(苦笑)
● おまけ ●
「ヨウちゃん、
ウチのコーヒー焙煎器で何か別なもの煎ったでしょう。」
実の父上とちょっぴり似ておいでだが、
雰囲気はずっとソフト…なはずの七郎さんが、
今日はどうしたことか、
負けず劣らずどこか険悪なお顔になっていて、
「えー? 何の話ィ?」
「可愛い子ぶっても聞かれません。」
一応は笑顔の形に口元を取り繕っているものの、
その口角が引きつっているし、
こめかみ辺りには血管が浮きそうな勢いであり。
こりゃ本気でお怒りかもと察したそのまま、
無駄に誤魔化すのは早々によした坊やだったが、
今度は むむうと膨れる真似をする。
「何だよ、電動の方のを使ったわけじゃなし。」
「そうだったら妖一郎に弁償してもらってます。」
大人げないぞと頬を膨らました金髪の坊やが腰掛けていたのは、
茶房『もののふ』のカウンター前のスツールで。
ほんの1週間ほど前に、
唐突に遊びに来たかと思ったら、
「何やらキッチンでごそごそしてただろ。」
とはいえ、
営業時間中の厨房はマスターの城でもあるものだから、
そうそう迂闊に入り込めぬと感じておいでの七郎さん。
そのうち、なんだか香ばしい匂いがして来たかなと思っておれば、
「この陶製のは、マスター専用の焙煎器なんだぞ?」
昔の男性がウィスキーを入れて懐ろに忍ばせていた
金属製のポケットボトルを思わせるような
丸みのある平たい形の焼きものの器。
片側の横手に取っ手がついており、
上側の真ん中に丸い窓穴が空いていて、
そこからコーヒー豆を入れ、
直火にかけて焙煎する器具なのだが。
「網の籠みたいなのもあったろうに なんでまた。」
「見つからなかったんだよ。
それにマスターが使っていいって言ったんだし。」
アメフトボールに似てるチョコボールを作りたいとセナが言い出し、
だったらと提案されたのがお手製のそれだったのだが。
市販のバターピーナツをそのまま
テンパリングチョコでコーティングしたんでは、
あのカリリという良い歯ごたえは出ぬだろからと、
子悪魔坊やがそんな一手間を思いついたらしくって。
とんだ悪戯ものがと叱る気満々でいたらしい七郎さんとしては、
「え? マスターが?」
それは聞いていなかったか、
きれいな水色の双眸を 真ん丸くしたところへと、
「ああ。たまに大豆とか煎っとるが。」
「何してますか、もう〜〜〜。」
良い間合いで掛かった お髭のご当人からの合いの手へ、
もうもうと肩を落とした 美人なウェイター様だったり したのでございます。
〜Fine〜 15.02.19.
*誰得?なおまけですいません。(笑)
ここ数日 西日本は温かいほうでしたが、
東京では雪が舞う数日だったそうですね。
その前は四月並みという温かさだったそうだから、
落差の大きいのも大変でしょうね。
でも、そういう行ったり来たりは春が近い証拠ですものねvv
待ち遠しいなぁ。
めーるふぉーむvv
or *

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